チャンスの神様

著:ルイ

僕がこの名前を聞いたのは高校3年の夏だった・・・。


蒸し暑くてせみの鳴き声がうるさい、夏休み前の学年集会。
教務主任が話し始めたこの話に僕はなぜか物凄く興味を持った。
もしかしたら、この夏に起こることをうっすらと感じていたのかもしれない。
「わたしが君たちと同じ高校3年の夏、わたしは『彼』に会いました。『彼』はとても不思議な姿でした。前髪はとても長いのに後ろには全然髪がないのです。」
そこまで言ったとき、生徒の中から笑いが起きた。
当然、僕もおかしくって笑ってしまった。だって、前髪だけで後ろには何もないんだよ。
想像してごらんよ、君だって絶対に笑っちゃうから。
教務主任は苦笑いしながら話を続けた。
「とてもおかしいでしょう。でも、だから『彼』はチャンスの神様なんですよ。
前で待っていれば簡単につかむことができるけど、後ろから追いかけたって決してつかむことはできない。なんていったって髪がないんですからね。」
そこまで話し、教務主任は「だから、常にチャンスをつかむ用意をしておいてください。」と締めくくった。要するに、しっかり勉強しろと言いたかったんだろう。
だから僕はこの話に興味は持ったが、ただの御伽噺のようなものだとしか考えなかった。
この夏に僕が本当に『彼』に会うなんて、思いもせずに・・・。

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