ワフイクソン 作品No.1368744529725

著:兆義

 その日、僕はある街に立っていた。奇妙な手紙を受け取ったのだ。
━あなたの大切なものをお預かりしています 二日後の午前二時に下記の場所にてお渡しいたします━
 僕はもともと人と関わることが余り好きではない性分なのでいつもなら無視をするのだが、何故かその時は「大切なもの」という言葉が妙に引っかかった。 既に約束の時間もかなり過ぎ、いても立ってもいられなくなった僕は傍に駐車してあったバイクにおもむろにまたがった。

 ヒッユンキュムアゥウウウウウウウウウ!!!!!!!!

 凄まじい爆音とともにエンジンがうなりを上げた。 高速に流れていく景色をぼんやりと眺めながら様々な疑問が浮かんでは消えていく。バイクに乗るのは今が初めてであるのに恐怖心を微塵も持ち合わせていない自分を感じると、無意識に笑みがこぼれた。

 ヂュアレマッスエゥウウウウウウウウウ!!!!!!!!

 どのくらい走ったのだろう、何かに導かれるように古い廃墟の前でバイクは静かに止まった。一歩一歩確かめるようにゆっくりと歩を進めた僕の肩を誰かが軽く叩いた。
 「スピードオーバーですねぇ。免許証見せてもらえるかな。」
 よりによって白バイに目を付けられていたとは。だが僕は冷静だった。
 「はいどうぞ。」
 そう言って極めて自然な態度でTUTAYAのカードを差し出し、一瞬の隙をついて廃墟に向かって走り出した。
 「おいこら待て!!」
 警官の怒声が響く中、急いでライオンの取っ手を引いた。その重そうな扉はいとも簡単に開き、僕は招かれるようにその中に入っていった。

 そこはこの世の果てとも思えるところだった。建物の内部は無重力空間で、僕の体は木の葉のようにくるくると回り、上も下もなくなった。 しかし、やはり僕は冷静だった。以前見た番組で「宇宙空間において、泳ぐ仕草をする事は非常に有効である」と、ある高名な大学教授が語っていた事を思い出したのだ。試しに手足を動かしてみるとすぐにコツを掴め、思う方向への移動が可能となった。

 しばらく泳いでいると暗闇にポワンと光が見えたので近づいていくと、エキゾチックなタイヤの柄が描かれた八畳くらいの大きさの部屋に出た。僕はそれを見ながら、ふと、先程のバイクの事を思い出していた。しかし頭の中でその映像が結ばれた瞬間、その部屋は大爆発を起こした━━

………
……


 気が付くと真っ白い部屋で倒れていた。あれだけの大爆発に巻き込まれたにも関わらず、どこにもかすり傷一つ負ってはいなかった。混乱する僕の前に何処から現れたのか二人の男が近づいてきた。
「カニはもう平らげたぞ。」
 見てみると先程までは何もなかったはずの空間にテーブルがあり、その上にはカニすきを食い散らかした跡があった。
「カニはもう平らげたぞ。」
 もう一人の男は同じ台詞を続けて言い、意味深に握ったままの右手を僕の顔に突き出してきた。僕の視線が右手にいった事を確認した後、男はゆっくりとその手を開いた。

「あ━」
 そこにあったのはかつて滅んだ古代都市の姿だった。何故こんな手のひらサイズに!?それを思った途端、僕の体はもの凄い勢いでそこに吸い込まれていった━━




「さて社長、これがこの度オープン予定の店舗の模型です。」
「変わった形だな。」
「はい。大昔の古代都市、ワフイクソンをモチーフにしています。今や老若男女問わず空前の古代史ブームですからね。」
「ふむ…む?今、何か動いた気が…。」
「どこですか。」
「いや、ここの、この人形が…。 まぁ気のせいか。」
「そうでしょう。異次元空間から飛んできた訳じゃあるまいし。」

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