狭間の夢
ある日気が付くと真っ白いドーム状の部屋にいた。
真正面に階段がある以外何も無く広い空間。
とりあえず部屋を出るために階段を登り扉を開けると、扉の先には白い壁の通路が延々と続いていた。
仕方なく前に進むしかなかった。まるで何かに誘導されるように・・・。
1〜2km位進んだところに扉があった。
先への道のりは長いので寄ってみようと扉を開けた。
そこには1本の林檎の木があり、金色に輝く林檎が1つだけあった。
林檎を採ろうとして木の近くに行くと辺りには茨の茂みがありなかなか採れない。
それでも傷だらけになって林檎を採ることができた。
何故かその林檎を食べたいとは思えなくて懐に入れてまた白い通路を延々と歩く。
通路の行き着いた場所に階段があった。
その階段を登り扉を開けると周りは何処までも広い砂漠の真ん中だった。
どうしていいか分からず、なんとなく砂漠を北へ向かい歩いていく。途中にオアシスのような水が飲める場所は見あたらなく喉が焼け付くように渇いた。
苦しくて仕方なくても何故か林檎は食べようと思えない。
その林檎はだんだん時間を追うごとに重く感じる。
やがて線路が見えてきた。線路沿いに歩けばやがて駅が見えるはずと思い必死になって線路沿いを歩いていく。
古い木造の駅が見えた。最後の力を振り絞り駅に辿り着く。
駅の中はベンチが1つと窓口が1つあるだけだった。
ベンチには老婆が一人で座っていた。
「すいません、ここで何しているんですか?」
と尋ねると老婆はおもむろに語りだした。
「私は林檎がないので切符を買えないのです。だから譲ってくれる人を待っているのですよ。切符がなければどこにも行けないからねぇ。もう何十年と待っているけど誰も譲ってくれなくてねぇ。」
どこにも行けないという言葉が引っかかり無意識で懐の林檎を握り締めていた。
老婆に軽く会釈してとりあえず窓口で切符を買おうと思った。
「すいません。切符ほしいのですが?」
窓口は曇りガラスになっていて誰かが居ることは分かるのだが誰が居るかは分からない。
「林檎持っているか?持っているなら出してくれ」
と太い声が響く。
懐から林檎を取り出して切符と交換しようと思った。でも出した時、老婆の事が気の毒になってしまった。そして気が付くと・・・。
「お婆さん僕の林檎でよかったら使ってください。」と老婆に林檎を差し出していた。
「これを私に譲ったらあなたは今までの私と同じく譲ってくれる方を何十年と待たなくてはいけなくなりますよ。本当にそれでいいの?」
「僕にはまだ時間があります。大丈夫ですよ。」と強がって見せた。
老婆は何回も会釈をして窓口へ向かった。
ベンチに座りこれからどうしようと考えていた。
「1番に×××行き急行列車、2番に○○○行きの列車入ります」と頭に響く太い声のコールが鳴り響く。
頭を抱え塞ぎこんでいると2番ホームに電車が入ってきた。
「お前さんは2番の電車に乗れ。いつまでもこんなところに居られると困るのでね。」
と窓口の人影が語りかける。
「切符・・・ないですよ。だから乗れないのでは・・・。」
そう語りかけると人影はこう言った。
「さっきの老婆は君を試したのだよ。老婆はこの世界の試験官だ。君は合格だから切符を受け取り列車に乗らなくてはならないのだよ。」
渡された切符には薄く擦り切れた文字で“狭間→現世”と書かれていた。
気が付くと僕はベッドに寝ていて天井を見ていた。
隣には泣きつかれて寝ている彼女が居た。
長い夢だったと思った。だが・・・・。
硬く握られた僕の掌には古ぼけて字が読めない切符が握られていた・・・。
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