Good Bye涙

著:音崎バンビ

雨の日って……キライ。

   *Good Bye涙*


降り止むことを知らない空からの涙。
放課後になるちょっと前に振り出した涙のせいで、愛海子(アミコ)は一人玄関で立ちすくんでいた。
ザーッ、と雨も大粒に変わり空も薄暗くなっている事で頭によぎる恐怖に一人耐える事30分。誰も居なくなった校舎で切れ掛かりそうな電灯をあびながら下駄箱のすのこにしゃがみこんだ。


(……最悪だ)


いい加減涙腺が緩んできた。
じんわり熱くなる目尻とツーンと独特の痛みが走る鼻。泣いてしまえばそれで済む事だろうけど、何かがつっかかって我慢してしまう。


「あめ、キライ。……ぅぅ」
「は、……え、南野っ?!」


突然苗字を呼ぶ男子の声が背中にかかって、愛海子は涙目のまま首を向けた。
きれそうにチカチカと光る電灯の下、愛海子の眼球に写るのは同じクラスの相澤悠馬(アイザワ ユウマ)だった。


「えと……相澤くん、何でこんな時間にいるの?」
「や、金井せんせーから雑用頼まれちゃって……それで」
「ふぅ〜ん」


どちらかといえば大人しい愛海子とムードメーカに値する悠馬とではまだまだ苗字で呼び合う関係だ。
愛海子は興味なさそうに返事を返し、また視線を外に向けた。悠馬はどうしようかと戸惑いながら愛海子の隣に腰を下ろし、同じように雨に目を向けた。
隣にずっと想っていた人が居る。と、一人脳内パニックの悠馬と対照的に【雨】で頭がいっぱいの愛海子は流れる沈黙も苦痛ではない。が、悠馬はいろいろ気まずいと感じ裏返るのを抑えて愛海子に話かけた。


「あ、雨、止みそうにねぇーな」
「うーん。そうだね。何でこんなに哀しいんだろーね」
「……へ? えと、悲しいって何が……」


愛海子の発言は、スポーツ馬鹿の悠馬には理解できない。


「雨は、さ。……泣いてるんだよ。空が」
「……」


顔をくいっとあげて見据える愛海子の横顔を悠馬は見た。
そのあがったまつ毛と綺麗な細い黒髪もとても魅力的だが、彼女の心がもっと綺麗で――、悠馬は再度「やっぱ好きだわ」と実感した。今の現代で愛海子の汚れない真っ直ぐな心が俺を惚れさせた一番の理由なんだ。と一人思い微笑む。


「相澤くん何で笑ってるの?」
「えっ? ……いや、いいなぁそういう考え。って思って」
「……そうかな?」
「うん」


そうやって素直に伝えられていいな。と愛海子は思う。
いつも一生懸命でバスケ命で明るくて、人気者で……。彼はわたしが持ってないものを全部持っているんだ。そう思うと愛海子はちょっと悲しくなった。


「そういえばさ、相澤くんも傘、忘れたの?」
「ああ!! そっかー!! 持ってるわっ、傘」
「そう、じゃあもう遅いし帰った方がいいと思うよ。あ、帰るんだったら携帯かしてほしいな」
「……や、いいよ。一緒に待つ!」
「ま、待つって……平気だって。それに止みそうにないと思うけど」
「……あ、止まなかったらさ……」
「うん?」
「走って濡れて、遊びながら帰ろーよ」


にっこり笑う彼に目を見開く愛海子。
やっぱり理解できない、と愛海子は声を小さく上げて笑った。
それを直視して悠馬が顔を夕日色に染めたり……。愛海子が実は今話している事が心地いいと思っていたり……。


「じゃあ、走って濡れて遊ぼうよ」スクッと立ち上がる愛海子。
「おうよ」悠馬も立ち上がった。


さっきよりも小雨になりつつある雨の中を飛び出す影。




……空は泣いている。――嗚呼、哀しいの?
ごめんね、キミは哀しいのに。わたしは何だか楽しいよ。

  
【雨の日って……キライ】


――そこまでキライじゃないの、かも。


愛海子も久しぶりに声をあげて全力ではしゃいで小さな公園までたどり着いた。。二人は立ち止まって見上げた空はいつの間にか泣き止んでいた。






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