雨の中で  〜改〜

著:ふぁんぱ

雨が痛いほどに強く私の顔を打つ。私の体を打つ。
目を閉じて、腕を広げる。

この苦い気持ちが洗われるような気がして―冷たさと痛みで自分を痛めつける。
今日みたいなひどい雨の日はいつも……。

償いだよ。君への。
見ててくれているかな。
まだ忘れてないからね。まだ後悔してるんだ、私。





耳が痛くなるほどの車のブレーキ音、血まみれで運ばれてゆく君―。
助手席に座っていた私は、意識が朦朧とする中で、君が穏やかに、ゆっくりと目を閉じるのを見た。



……私だけ、まだこの世界にいるんだ。呼吸をして、感じて、食べて……。
一人になって……残ってしまった。




雨と涙が混じって私の頬を伝う。

体の中に冷たいものが入り込んできたように、だんだん凍えてきた。

そして、やがて冷たさも痛みも感じなくなってきた頃、私は
びちょびちょの体を引きずって、マンションの中に入った。

真夜中になっても、マンションのロビーの灯りは消えていなかった。
そんなことに少しほっとしながら、自分の部屋へ戻る。
玄関先で、
自分の全身から次々にしたたる水を見つめながら、眩暈を覚えた。
頭が殴られたみたいにガンガンと痛む。
顔をしかめて、座り込む。
頭を抱えて、ううっと自分の声が漏れるのを聞いた―……。




気が付けば、小さな町を見下ろしている自分がいた。
辺りは深い、深い、紺色で……遠い向こうに月が見える。

ザアザアと雨の音がする。
針のような雨。
なのに、感じない。体温や感触がなくなってしまったかのように、私は何も感じなかった。
雨の冷たさも、痛みも。

自分の真下にある、町の方に目を凝らすと……君が見えた。
なぜか、傘もささずに、雨を受け止めている。
苦しそうに顔をゆがめて、真っ赤な目で、自分の上の夜空を、私を見上げているんだ。

―やめてよ!そんな顔で私を見つめないで!自分を痛めつけるようなことしないでよ……。
君の苦しみは私の痛みに繋がるんだから―。
お願い―やめて―……。責めないで。

声が出せない。
ヤメテ!    心で叫ぶ。

だんだん君がぼやけてゆく。






冷たさがまた戻ってきた。
恐い、恐い―――――『夢』―……だった。    
ごめんね。ありがとう。
 ぽつんと呟く。


もう声は震えてはいない。

私は目からの水の温かさに心が溶かされるような気がした。

服も髪も乾いていて、しっとりしている。




シャワーを浴びて、窓の方に目をやる。
本当に、久しぶりにカーテンを開いてみた。

外には青くてまぶしい空が広がって、その中に二つだけの小さな雲が寄り添うように浮かんでいた。
もうきっと、自分を責めながら、雨を受け止めることはないだろうなぁ、とぼんやり思った。
君からの最後のメッセージのおかげで―……やっと自分を許せそうだ。
そして今はこう思える。


星になった君へ、今度は笑いかけるからね。

この作品への感想は、ふぁんぱ氏まで、メールでお願いします。


戻る