たからものばこ
引っ越しのために部屋の中を整理していると、「宝物箱」と書かれたプラスチックの箱が押し入れの中から出てきた。
「懐かしいなぁ」
私は小学校時代の大切な思い出をゆっくりと思い起こすようにして、箱を静かに開けた。
ボロボロになったクマのぬいぐるみや、友達から誕生日に送られた小さなブローチ、当時人気だったキャラクターの靴下まで、さまざまなものが詰め込まれたように入っていた。
その中で、何かがキラリと光った。目を向けると、それは銀色の指輪だった。
ピンク色の石がついていて、もちろん、おもちゃの指輪だけれど、とても綺麗で、
なぜか、胸の奥がきゅっと鳴った。
次に出てきたのは、卒業アルバムだった。綺麗な水色の表紙には、
「瑞輝小学校」と書いてある。
今でも仲良くしている人もいれば、もう名前を忘れてしまった人たちも写っている集合写真。
みんなが、あどけない笑みをカメラに向けている。
私は隣の友達とおそろいのリストバンドを見せながら、ピースをしていた。
それから、卒業文集のページに移ると、
「私の未来 伊藤 亜衣」と一番最初に自分の作文がのせられていた。
将来はデザイナーに就き、大切な人と幸せな家庭をつくり、仕事と家庭を両立させるカッコイイ女性になりたいと書かれていた。
読み終わらずに、私は卒業アルバムを閉じてしまった。
昔に書いた自分の文章を読み返すことは、どうしてこんなに恥ずかしいのだろう。
今、私はデザイナーとして半人前ながら仕事を続けている。この間、やっと大きな仕事がきて、東京の中心部に引っ越すようになったのだ。
それから、『大切な人』は……。
「あ」
箱から最後に出てきたのは、手紙だった。
「伊藤へ 真一より」
と、汚い文字で私の名前と差出人の名前が書いてある。
内容は、見なくても覚えている。単純な言葉だった。
そして、指輪とこの手紙だけが、ジュエリーボックスやレターボックスに入っていなかった理由、宝物箱に入っていた理由は……。
「亜衣!もう車来てるから早くしろよ」
「ごめん、真一!今行く!」
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