自分をもって
「みなさん聞いてください!!文化祭の出し物は――」
あいつの大声は他の声にかき消された。
汚い言葉、うるさい笑い声……なぁ、みんなどうして心がないんだ?
どうしてあいつの話を聞いてあげられないんだ?
どうして今だけでも静かにできないんだよ。
「お前ら!静かにしろよ!前であいつが一生懸命話してるだろ!?」
カッコイイ俺のセリフは、消えていった―俺の心の奥に。
言えるわけないじゃないか。
想像してみるだけで恐い……しらけた視線、冷たい言葉、せせら笑い――俺って……情けないやつ。
今日もあいつの声は聞こえなかった。
今日も教室は叫び声みたいな鳴き声みたいな雑音でいっぱいだった。
ため息だらけのベッドで俺は夢を見た。
小さい頃の―小学生の頃の俺がじっとみつめてくるんだ。
静かに、じっと―
まだ朝日が出ていなくて、ふるえるほど寒い。
不気味ではないけれど、なんとなく居心地が悪い夢だった。
責められているような……そんな気持ちがした。
「ガタンッ!」
後ろで大きな音がした。
驚きながら小さな声をあげて、振り向くと、ブルーの本が床に落ちている。
毛布から出て近くに寄ると、ブルーの本は卒業アルバムだと分かった。
懐かしい思いで胸がいっぱいになり、中をめくってみた。
幼い顔ばかり並ぶ集合写真―汚い字で書かれてある自分の卒業作文―なんだか恥ずかしいな……
一人でささやかな笑みを浮かべながらページをすすめていくと……
『将来の夢』風船の絵で飾られたページで指をとめた。
『佐々木 豊 自分をもったカッコイイ大人!』
……俺ってば、なんでこんなこと書いたんだろう……普通は野球選手とか、社長とか……今、俺は
こんなに情けないんだぜ?
俺は……人に左右されてばっかりの弱い奴……形だけ気取って……
ふいに涙が出てきた。
それから俺はしばらく泣きつづけた。 静かに、締め付けられる胸を抑えて。
「あのっ、みなさんはどんな出し物を―」
またかき消されてる、あいつの声……。
大きく息を吸い込んで、天井めがけて手を突き出した俺。
「はいっ!!」
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