唇かんで

著:ふぁんぱ

「マミちゃんキライっ」
そういってタクヤは走っていく。

――ふん、泣き虫タクヤ。

昨日指きりげんまんしたじゃない……うそつきっ……





「泣かないで、泣かないでよ、タクヤぁ」

昨日の夕方、保育園のお砂場でタクヤはまた泣かされていた。
体が大きくて、乱暴な次郎くんに。

「うぅ……」
「タクヤ、泣かないで」
必死に励ましてもダメだった。
タクヤはすぐ泣く。
転んだときも、次郎くんにおもちゃを取られたときも、おもらししたときも。

「タクヤはまだマミに守ってもらってるのかぁ、かっこわりーぞぉ!」
次郎くんがからかう。

「もう……あっち行ってよ!」
次郎くんをにらみつけると次郎は笑いながら逃げていった。

「タクヤ、男の子はね、女の子を守る王子様なの。すぐ泣いちゃダメだよ」
「うん……ごめんね、ありがとうマミちゃん」

「いいこと、おしえてあげよっか?」
「え?」

「あのね、泣きそうになったら唇をぎゅっとかむんだよ、痛いくらいに。
そうすると、大丈夫なんだって。ホラ行こう!」
タクヤの手を引っ張るとタクヤは言った。
「僕、マミちゃんを守れるくらい強くなるね」ふわっと笑うタクヤ。
「ほんと?ほんとのほんと?」

「うんっ」
「じゃぁ、指きりしよう!」











「タクヤくんとどうしてケンカしたの?」顔を覗き込む先生。
「……」

「マミちゃんがぶったぁ」

「マミちゃん?タクヤくんのことぶったの?」先生の顔が悲しそうになる。

「だって……だって……タクヤが次郎くんに負けちゃって……
またおもちゃ取られて……泣いて……次郎君にタクヤもマミもいじめられたからぁ……」

鼻が痛くなってきた。
「うわぁぁぁん!」みっともないって分かってるのに大きな声で泣いた。

目の前で泣くぐちゃぐちゃなタクヤの顔。
心配そうな先生。
みんなイヤで悲しかった。

「わぁぁぁ!」タクヤももっと、もっと泣く。

二人でいっぱい泣いた。
だんだんなんで泣いてるのかも忘れて。
のどの奥もひりひりしてきて。


先生もいなくなった頃にタクヤは先に泣き止んだ。

「マミちゃん、ごめんね?」
「いやっ」
「マミちゃんってば……」

タクヤったら、また泣くのかな?
そっとタクヤの顔を見ると
タクヤは唇をかんでいた。
お人形さんみたいなタクヤの唇。
真っ赤な目をして今すぐ泣きそうなのに
がんばってタクヤは唇をかんでいる。

それが面白くて
「あはははっ……ぐすっ……ははっ」泣きながら笑った。

「へへっ」タクヤも照れたように笑う。



それから先生のところへ二人で行った。
「あら。二人とも仲直りしたの?えらいね」
タクヤとそろってうなずく。
手をつないで。唇をかみながら。



タクヤの手はとってもあったかかった。

この作品への感想は、ふぁんぱ氏まで、メールでお願いします。


戻る