to last day
いつの間にかもう夏が来ていたある日のことだ。
「人は何で人を殺すって考えたことある?」
「魔が差すって感じ、」
「それっていけないこと?」
「なんで?」
「それを誰がいけないって決めるの?」
いきなり、なんなのおまえはとは思う。でも、それぐらい今日は暇だった。
夏はやけに暑く感じて本当に涼しい所は僕らにはなぜか用意されてなかった。
「世間とか法律、だと思いますがなにか」
「絶対に正しくないと思う」
「は?なにそれ」
「それみんな生が在ればこそ、でしょ」
死には選択はないからさ、と続けて言う。
「犯罪者が殺されるのは、かわいそうって?」
「犯罪がなければ平和?」
「…?多分、ある程度は」
「じゃあ犯罪じゃなくても殺される人は平和って言えないよね。」
「なにそれ」
「戦争や事故のこと」
「…平和じゃないだろうね」
「でもさ、結局死んじゃうんだ」
死んじゃえば、何もかも無くなって罪も消えちゃうのねと言った。僕は悲しくなって言葉を探す。
「裁いて解決するものじゃないかもしれないな。」
「本当?」
「うん」と僕は頷いて
だったら平和のための裁きって悲しいなと続けて言った。
「平和のためってなんなん?」
「知らね」
「んでもさー、そういう世の中なら私たちも死ななくちゃいけないんだね」
「え?」
「こうしている間に私たちも誰かを殺しているから」
「誰を」
「知らない誰かを」
「どうして」
「生きているから。」
だって、そういうことでしょう?とサエは冷たい顔で言った。僕はその時目を丸くして何を言っているのか考えたのだけれど結局分からなくなった。
魚みたいに誰かを殺す、わけなんか出来ないけど僕らの倫理観なんざ腐りきってる。押さえつけて埋められた何かを、そのまんま人が変わって絶え間なく水が注がれた感じで。
「へぇ、すごいなおまえ」
「あ、そう?よくきちんと聞いてくれたよねって今考えてた」
「あぁ、そう。」
何?おまえそんなことが言いたいわけ?と聞こうとして面倒になってやめた。
僕らは一つのアルバムが終わった、ちょうどと同じくらいの時間だけしか共有することが出来なかった。それにはいろいろタイトルが付いているのだけど、そんな素敵を飾った二人でもなかったから、今この瞬間から溢れだしてく時間のような存在をいちいち確かめるような事をまるでしようとしなかったのだった。そして、僕はそれを後悔するようになる。
いつ、だったか僕は僕が知らないうちにサエと同じクラスになっていた。でも僕はサエのことを3ヶ月以上知りもしなかった。なぜならサエは僕にとって可もなくければ、不可もないような普通の人だったからだ。それは僕があまり女とは話さなかったのでまるで接点がなかったせいもある。
女より同性の奴らの方が楽しいし、面倒くさくないから一緒にいた。僕もクラスの女にとっちゃそんなもんやろなとも思っていた。可もなく不可もなくこれから手を繋ぐわけなんか、わけない。そんな認識に当てはめるようなこともしない、ごくごく関係の無いだろう人々、しかり。
しかし、僕がそんなことを考えていたのに反し彼女は後になってこう言った。
「知ってたよ」
とまるで当たり前かのような顔をしたのだった。
その時は言っていることよりも僕が知らなかったことに対して怒っているのかと思って驚いた。でも、そう言ったサエは次に
「だって、要君は自己紹介ん時顔真っ赤にしておったでしょ」
ケケケとわざとらしく言っただけだった。僕は嬉しくなって
「おまえ、下んないこと覚えてんな結構。要君とか言うやな」
と言い返すと今度はちょっと不機嫌な顔をして、彼女は僕を歩きながら抜かした。
僕はそのうしろ頭を見ながら何をいうか考えた。サエは頭がちいさい。こんなにちいさいというのに、この中にはいろんなもんが詰まっているに違いない。ふと僕のことは入ってるんだろうかと考える。
せめて三番目くらいに入れてもらいたい、と心からそう思ったりした。
とすると、
「要君は愛がないなー、もう」
と前から投げやりに文句を言っている。名出しで、しかも大声で叫ばんで欲しい。頭飛んでんのかと思ったが、そんな危険な事してない。ないない。
いや、好きだよ、ほんとにと薄目開けて、気持ち悪く言ってみた。そう言って僕はサエを見やった瞬間、サエが僕の方へ振り返る。え?頭飛んでんの?イエスアイアム、イエー。
そこは国道の交差点で、信号がちかちかしてる横断歩道の上だった。それだけでそれだけでもないような気もした。だから赤になった次から僕は変わることを、あの時望んでいたかもしれない。
僕らはケンカだってするし、テストの点数や席替えなんかに騒ぐようなごく普通の高校生だった。
先生のあだ名を考えたり、くだらない落書きや手紙とかを授業中にまわして怒られたりもした。制服の着方だとかいちいち面倒になったり、集会とかはうざったくていつも寝てばかりいた。そんな僕らは友達も交えてからかい合ってふざけあいもうそれしかこの世界には無いような生活をした。
同じ時間に地球のどこかでは人が死んでいたり、雨が降らないと嘆いている人がいることを知っていたのに僕らにはそれと同等な生々しさが欠けていた。欠落していたといったら非道いかもしれないけどみんなみんな僕も含めてそんな風に見えた。それが幸福なのか不幸なのかはわからない。それでもその時間が永遠に続くかのような気がしていて、そんな中で僕らはいつまでもループしてくんだとそれさえげらげらして笑って終わりにした。終わりにさえ出来ると思っていたに違いない。
僕らにはいつも楽しい感じの風が吹いていて、やばいくらい綺麗な景色が見える。
でもそれは別にサエと一緒にいるときに限った事でなかった。それはいつだって、当たり前の言葉を占領して、僕の視界を我もの顔でのさばりながらそこにある。全然、それじゃ綺麗なんて信じられないとは思うけれどその綺麗さ加減は半端無い。
サエじゃないけれど、あれだ、電波とか飛んできて、僕自身の事さえぶっ飛ばしてしまいそうな感じです。助けてくれーなんて言う暇もないくらいにあっという間にかっさっらって、頭ん中キャリーオーバーしてる感じがすると言うとサエは真剣な、顔をして
「分からない」と言い切った。
それとまた同時にぷはって大笑いして、クラスの人はなんなん??って顔で呆れていた。
そんなんで僕らは満たされて、楽しく幸せだった。
色を重ねれば、混じり合って戻らないような、そんな頭悪い幸せに取り囲まれて、思いっきり思いっきり笑った。するとサエはいつもと同じようにまた変なことを話し出す。
今日のお天気おねーさんの服装が変だったとかドットコムの意味とかペコちゃんのみよじは原かな、なんて事だから切り返すのが大変極まりない。
でもサエはにこにこしていて、僕が困った顔するとまた違う話を切り出す。
別に答えを待っているわけじゃないなら言わなくても良いじゃないかとは思う。
でも、なんだか言えない。というか、言う必要がないことだって世の中にはあります、別に良いじゃないかという気が起こる。そんなの意味なんて無い。在るわけ無いはずなのだ。だってなんか楽しいだけで。とても複雑で、どうしてかなんて考えるのがどうでも良くなってくるようなこんなんが楽しい。心地よくて幸せだなんて思ってしまうのだ。二人でけらけら笑っている事実のことの方が大事なんだって。多分、この地球に人が9割いなくなくなったって二人で笑っていられればいいのです。きっと実際そんなことになったらそういってなんかいられないけど幸せだからこのくらい言いたい。
なんかいい風が吹いてんな、と言うとサエがもうすぐ寒くなるよと言った。別にそれでも良いじゃないか、と僕はそう思った。僕はサエの三番目じゃないかもしれないけど、もうそれもでも良い気がしてきた。だって、今こんなに気持ちいい風が吹いていて隣にサエがいる。最近は違う。なんか楽しい。他には何も引けをとらないほどにとても緩やかだ。風なんか吹いてきて、寒かったり暑かったりするのにいつだってなんだか良い感じに吹いてくる。わざとシリアスぶってサエに
「今なら飛べるかも」
と言うと
「そうかもね」
と言ってきた。以外だったけれどやっぱ楽しいなと思った。
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