夏祭り

著:月原樹亜

いつから私はアイツのことが気になりだしたんだろう?
いつから私はアイツのことが好きになり始めたんだろう?

分からない…。

いつの間にかアイツのことが気になりだして、
いつの間にか好きになっていた。
気付いたときには、私の瞳にはもうアイツの姿しか映っていなかった。
ただ、アイツの声が聞きたかった。
アイツの後ろ姿をそっと見つめていたかった。

私はアイツに依存しすぎてしまっているのかもしれない。
私が好きだと言ったらアイツは笑うだろうか、
こんなガサツで、女らしさの欠片もない私なんて何とも思ってはいないのだろうか。
好きなのに素直になれない私。
好きなのにこの想いを胸にしまい込んだままの私。

もどかしくて、切なくて、ちょっぴり苦い気持ち。
アイツが他の子と話しているのを見るだけで焼きもちをやいてしまう。
いじっぱりで、どうしようもなくて、どこか子供っぽくて、
そんな私にアイツは優しい声をかけてくれる。
鈍感だけど、私はそんなアイツが好きだった。
優しくて、頼りになって、かっこよくて……
そんなアイツのことが大好きだった。
だから、誰にもアイツを取られたくなんてなかった。
誰にも負けたくはなかった。
私は焦っていたのかもしれない。
少しムキになっていたのかもしれない。

アイツの為に何かをしてあげたいと思っても、
うまく出来ない自分に苛立ちを覚える。
悔しくて、苦しくて、
そんな自分がもどかしく思えた。
もう、アイツのことで何度涙を流したことだろう。
もう何度、アイツのことを想っただろう。
何をしても考えるのはアイツのことばかり、
悩めば悩むほど深みにはまっていく自分がいる。
人を好きになることがこんなに苦しいことだということを私は知らなかった。
人を愛することがこんなに辛いものだとは思っていなかった。

私の中でアイツに対する想いが強く、大きくなっていく。
そんな感情が私の胸をきつく締め付ける。

普通の女の子みたいに振舞えればどんなに楽だろう?
いつも通り、バカな話で笑うことができればどんなに楽だろう?
思わずそんなことを考えてしまう。

でも、今の私にはそんな余裕なんてあるはずもなかった。
いつも以上にアイツのことを意識しすぎて、何を話していいのかすら分からなかった。
どこかぎこちなくて、どこか躊躇いがちな私。
でもそれが心地よく感じている自分がいる。
少なくとも今はアイツを独り占めできている。
それだけでも幸せだった。

でも、どこか満足できない…
もっと私を見つめて欲しい。
もっとアイツと話がしたい。
そんな欲張りな私がいる。

目の前にはアイツがいる。
鈍感だけど、どこか憎めないアイツが…
不器用だけど優しくて、
頼りになるそんなアイツが…

手が掛かるけど放っておけなくて、
一緒にいると時間すら忘れるくらいに楽しく思えた。

そんなアイツのことが好きだった。
ずっと…
他の誰よりも…
ずっとアイツだけを見つめ続けていた。

どこか落ち着くアイツの笑顔。
私を安心させてくれるアイツの匂い。
ずっと一緒にいたい。
そう思った私に躊躇いはなかった。

私はアイツにそっと声をかける。
もう、迷わない。
そう決心した私は思い切って彼の顔を見つめる。

頬が熱く、鼓動が高鳴っているのが自分でもわかる。
フラれてもいい、後悔してもいい。
ただ、私はアイツに自分の想いを伝えたかった。
決してフラられる為ではなく、後悔しない為に正直な気持ちを伝えたかった。
だから…

「あのね、俊介…」
その声は自分でも驚くほど自然だった。
目の前には長年想い続けたアイツがいる。
私は、少し間を置いてからアイツに自分の想いを伝えるために口を開く。
遠くで花火の音が聞こえる。
まるで私達を祝福するように……


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