黒猫の悲しいお話。

著:ジン太

黒猫の話

ある町の大通り。
そこには黒猫がいた。
しかし、その姿から猫は、忌み嫌われていた。
夜の暗闇に溶けるその体をめがけて、人間は石を投げた。
そのため、孤独に離れていた。
むしろ望んでいた。
黒猫には、誰かを思いやることなんて、煩わしくて。恥ずかしくて。
そんな猫を抱き上げるのは、若い絵描き。
そして絵描きは言った。
「こんばんは、素敵なおちびさん。 僕らよく似ているね。」
そういうと、絵描きはもっとぎゅっと抱きしめた。
黒猫は走った。ものすごいスピードで走った。
黒猫は生まれてはじめての、優しさが、温かいぬくもりが、まだ信じられなくて。
しかし、どれだけ逃げたって、変わり者は付いてきた。

それから猫は絵描きと、3度目の冬を過ごす。
絵描きは友達に名前をあげた。黒き幸「ホーリーナイト」。
黒猫は、初めて、彼のスケッチブックを見た。
彼のスケッチブックは、ほとんど黒ずくめだった。
黒猫も初めてのの友達にひっついて甘えた。
・・・が、ある日、貧しい生活に、倒れた友達。
最後の手紙を書くと、彼はこう言った。
走って、走って、こいつを届けてくれ。
夢を見て、飛び出した、僕の帰りを待つ、恋人の元へ。
不吉な黒猫の絵など売れないけれど、それでもあんたは俺だけ書いた。
それゆえあんたは冷たくなった。手紙は確かに受け取った。

雪の降る山道を、黒猫が走る。今は亡き親友との約束を、ずっと口にくわえながら。
「見ろよ!不幸の猫だ!!」
様々なものを投げ始める子供。
何とでも言うが良いさ、俺には、消えない名前があるから・・・。
‘ホーリーナイト‘
聖なる夜 と呼んでくれた。
優しさも、ぬくもりも、全部詰め込んで、呼んでくれた。
忌み嫌われた俺にも、生きる意味があるとするのならば、この日のために生まれてきたんだろう。
死んでも走るよ。
彼はたどり着いた、親友の故郷に、恋人の家までもうすぐだ。
走った、転んだ、そしてまた走った。しかし、子供たちの罵声と暴力はやまない。
負けてたまるか、俺は『ホーリーナイト』。
ちぎりかけた手足を、引きずり、なお走った。
見つけた!この家だ。
手紙を読んだ恋人は、涙を流しながら、もう動かない猫の名にアルファベット1つ加えて庭に埋めてやった。
『聖なる騎士』を埋めてやった。          〜K〜

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