天体観測
「オリオンってさ、実際は太陽より何倍もデカいんだよなぁ」
いきなり意味深な言葉をふっかけてきたものだ
「ほらみろよ、この星からじゃ片手だけでつぶせるぜ?」
だからどうした、おまえが片手でオリオンを潰したからといって
地球に天変地異がおこって一夜のうちに死の星になるわけでもないし
太陽の位置エネルギーがずれて地球に急接近、火星への移住を急きょ開始、なんてなるわけでもない。
「…ちっぽけだよな」
そうだな
「…やんなっちゃうよな」
やんなっちゃうのは俺だけどな
親の大喧嘩が続いたらしい
毎夜毎夜机とイスその他もろもろが飛び交うほどの喧嘩だったそうだ。
こいつが中学三年の時に父親の会社が倒産し、家計は火の車
就職口もみつからず、…その後は説明はいらないだろう、無論エンドレスな喧嘩のゴングがなったのだ。
計画名「俺が家出したら両親二人も探してくれて一家団欒を取り戻せる!いやとりもどそう作戦!」
…っと教室のど真ん中でこいつが叫んだのは、今日の学校の昼休みのこと。
問一、なんで家出先が俺の家なのか
「お前の親父が面白いし、母さんは優しいし、そんでもって親友のお前がいる!」
問二、このクソ寒い冬なのに、なんで現在屋根の上でプチ天体観測なんかやっているのか、
「前にある小説でな、屋根の上でラーメン食って星ながめてるシーンがあってな、やってみたかったのだ!」
問三、お前の両親はどうしたのか
「…わかってたけどさ、今ごろ家でいつものごとしだろうな」
「妹もおいてきちゃったしさ、俺のこと幻滅しちゃったかな、かわいい妹なのにさ」
お前と毛布にくるまって屋根の上でラーメン食ってるこの情景も
そのかわいい妹とやらがいれば、多少花があったのにな
マンガ描写とかだったら、周辺がキラキラ周りが花だらけだったんじゃないでしょうかね
「…来ると思うか」
返答は出来ないね
「別に来なくてもいいんだ、けど家出したことくらいは、心配してほしい」
「イスなんか投げ合ってないでさ、協力して探してくれればなおよし」
「妹が「心配したんだよお兄ちゃーん!」って言ってスカートひらひら胸に飛び込んでくれれば最高!」
まずありえない、俺の記憶ではお前の妹は「お兄ちゃん」と呼ばず「兄貴」と呼んでいたし
しかも熊のぬくぬく冬眠のこの時期に、スカートってのは身の危険を感じると思う。
せめて、街中を必死に探し回る親の光景が見れるように、がんばれよ
「携帯もさ、家だよ、親がさ、最後に買ってくれた一世一代の買い物だぜ?」
「着信履歴とかメールとか見ても、たいてい妹かお前の軽いあしらいの文字ばっかだよ」
そりゃ悪かったな
「買ってから喧嘩が始まったからさ、両親のアドレスさえないんだよ」
「普通無いよな、肉親の電話番号やメールアドレスが登録されてないなんてな」
親のが入ってるのを恥ずかしく思う奴もいるんじゃないか
「そうだとしてもさ、俺はうらやましい」
二つの白い息は、一度混ざり合い、そして消えていく
それっきり、黙りこんで毛布の中にくるまったこいつを横目に
山々がしらみ、休むこともしらない灼熱の星が、
果て無き闇の空を、さわやかな青色に染めていく。
親友としてこれだけは願うけどさ、この毛布野郎の闇もさ、青色にそめてくれないかな
理由なんてなんでもいいよ、「カップラーメンおごってくれたから」ってだけでもいいし
「やるべき事もない夜の話し相手になってくれたから」ってだけでもいいから、
恩返しなんて思わない、俺はそんなに義理堅くない、友達思いでもない。
でも、こんな毛布にくるまったままの心を持つ親友を見るなんて、ヤだからさ。
時は6時、金曜日、学校もある、体調は快調、今日は、親友と登校できそうだ。
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