立土の伝説

著:梅桐花 錠

ある昔の事だった、そもそもそれが書かれていたのは一万年前後だと言われていた。
 そのころ立土は虎と、狼と遊びながら育っていた。
 もともと彼は精霊の子だったからかもしれない人のいない森の奥に一人で小さな小屋で暮らしていた。
 木の実や果物、草の葉や根等を主食としたまに川魚を食べていた。
 そのせいか、贅肉のいっさいないすらりとした体つきに成長していた。
 そんなある日、彼は虎がどこかに行ってしまってもう一週間以上たつとさすがに心配に思い狼とともに森をいくつもいくつもこえて探し続けた。
 そうしてやっとその翌々日あたりになって見覚えのある虎の足跡を見つけた。
 彼は狼をつれその足跡をたどり続けていたが、いつしか目の前に立ちふさがる広大な壁に突き当たると、そこで虎の足跡も跡絶えてしまっていたのだ。
 しばしこの後どうするか考え込んでいると、狼が壁の真上に向かってしきりに吠え出したではないかっ!
 その答えを読み取るように彼は狼にこういった。
「この中なんだねっ!ありがとう、おまえは森にお帰り。」
 そう言い残すと彼は約数十メートル以上ありそうな高い壁を飛び越した。
 そこは、彼の住んでいた森とは違う景色が広がっていた。
 目の前には見たこともない広い美しい澄み切った湖が広がり、その湖のはるか奥に巨大な滝が絶え間なく流れている。
 そのすばらしい光景に見とれていると。
 ガォーッ
 と、虎の叫び声が聞こえたのだ。
 その虎の声を聞いた途端に彼は走り出していた。
 虎よりも早いその足で、それにしてもここはとても奇麗だった、木々は等間隔に映えていて、下草もまるで全て切りそろえられているようだ。 
 そして、整えられた木々の間から物音がガサガサッ、と聞こえたかと思うとザッ、という音とともに彼の見たこともない人達がいた。
 その人達は鉄の衣を体に身を覆わんばかりに張り付かせ大声で口々にこう言ってきた。
「だれだきさまはっ!」
「侵入者発見、ただちに現場に急行せよ!」 
それに驚いた彼は、ふいに立ち止まる…。
 すると、その人達の近くに頑丈な人の背丈程の鉄の檻があり、その中に虎が閉じ込められていたのだ。
 それを見つけた彼は虎の近くにかけよると檻に手をかけ、こう言った。
「ここにいたんだねっ、今すぐに出してやるからなっ!」
 しかし、彼を挑発するかのように鉄の人達はこう言いながらあざ笑う。
「無駄、無駄、おまえなんかに壊されるほど脆くわないわ、わははははっ。」
 だが、次の瞬間…鉄の人達の笑いは引き釣っていった。
 ギッギギギィーッ
 鉄の人達はその場に凍りついたように固まってしまった。
 ギィ、ギィ、ギィッ
 彼が次々と鉄の檻の棒を、信じられない怪力でネジ曲げていく様を呆然と見ていた鉄の人達のうちの一人が、はたっと気がつきこう言った。
「おっおいっ、領主様に献上するはずの山猫を黙って逃がされてしまうぞ、誰か止めるんだっ!」
 しかし、それを言った人を押し出すかのように、誰も彼の怪力を知った以上、止めようとはしなかったのだ。
「さあっ、早くここを出ようっ!」
 そう彼は虎に呼びかけると元の帰り道へと走り出そうとした。
「やあぁああーっ!」
 弱々しいかけ声と共に、鉄の人達のうちの一人が彼に立ち向かっていた。
 が、虎が咆哮の一撃をかますとその人は驚き怯えて腰を抜かしてその場に座り込んでしまったのだ。
 彼は虎の背にのり、身動き一つ出来なくなってしまった鉄の人達を後にして、その場からゆうゆうと走り去り、軽々と壁を飛び越えて元の世界へと帰っていったのだった。

  終わり
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