紅い湖に咲く花
ある、良く晴れた昼下がり。
僕は、紅い花畑にいた。
花畑の中心には白い塊が見えた。
それは人だった。その人はふいに立ち上がり僕を見た。
ピンクの瞳が僕を見る。
僕はその瞳に引き寄せられる様に近づいた。
その人は白く長い耳、そう、兎の耳をした女の子だった。
その子はにっこりと優しく笑う。
「君は、誰?」
僕はその子の瞳を見つめながら言う。
その子はただにっこりと笑ってみせるだけだった。
「僕はイオ。君の名前は?」
その子は何も言わずに僕に笑いかけ、白いワンピースを風にゆらせ周りにある紅い花をつんだ。
その子につまれた花はとたんに色を変え、紅から美しい白へとなった。
僕はその時、始めてその子の足元を見た。
「……っ」
その子は紅い水溜りの上に立っていた。
鉄のにおいもしてきた。
その子はただ、にっこりと笑うだけだった。
僕は、その光景を見てひざが少し震えた気がした。
けど、その子の笑う顔を見るとその気持ちが落ち着くのを感じた。
それに、その光景が美しいとも思えてきた。
それから、僕が何を聞いてもその子は笑っているだけだった。
僕はもう何も聞かなくなった。
不思議と飽きずにその子を見続けていた。
その子はいつまでも笑っていた。
僕がゆっくりと目を閉じると、鉄のにおいは消えていた。
気付いて目を開けると、その子はいなくなっていた。
その子が立っていた場所には、白い花が一輪、咲いていた。
それはまるで、紅の湖に落ちた天使の羽のようで。
これは、あるよく晴れた昼下がりの話。
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